眼を瞑っている訳ではないし、涙で濡れている訳でもない。眩しい訳でもなければ、暗い訳でもない。なのに俺の視界は、滲んで、歪んでいった。
しろボンらしき輪郭のぼけたものが、しきりに俺の名前を呼ぶ。そんなに揺するなと払いのけようとしたら、逆に手を掴まれてしまった。いつもは暖かい手のひらも、寒空の下にあっては冷え切ってしまったようで、せめて手袋でもしてくれればいいのに、下がりきった体温がままに伝わってくる。どうやら寝そべった俺を起こしたいようだ。それこそ普段昼寝にいそしむこいつを俺が起こす時のように、耳元に顔らしきものを近づけ声を掛け、更に体まで揺すられるものだから、煩わしいことこの上ない。
いいか、俺はお前に十分構ってやっただろう。
本来お互い激務の筈だ。街のケーキを買うのに護衛に出たり、ボンバーファイターで連れだったりする暇はない。朝起きる自信がないからと部屋まで目覚ましの代わりをしたり、夜お化けが怖いからという下らない理由で廊下を付き添いをしたりなど、まず考えられない。そもそも、お前と俺は王子と隊長という立場で、決して友人関係ではなかった。それだけ付き合ってやったというのに、まだ遊び足りないと言うのか。第一、よく寝坊しては予定をすっぽかしていたお前がそれを言うのか、おかしい話だ。
俺が起きないのをいいことに、頬をはたいたり、その手を強く握られたり、好き勝手にやられている、ようだ。だんだん感覚がなくなり、影すらも形を失い、やがて瞼が合わさって、呼吸も気にならなくなって、日差しの眩しさだけが鮮烈に目の裏を焼く。
春とは恐ろしいものだ。厳しい寒さが過ぎ去って、暖かい陽光が眠りへ手招きする。冬を越せた誇りに草花は芽吹くのだとすれば、さしずめ俺は北風に敗れた枯れ木のようなものか。うっすらと、どこまでも続く花畑に一つ、ぽつんと木がしおれている光景が見えて、今の俺はこう見えているのかと思うと、せせら笑いたくもなる。
それでも誰かが宿りに寄るだけでも冥利に尽きるというものだろうか。
おかしい、静かにしていたい筈なのに、春陽の柔らかさに呑まれ、奴があれこれちょっかいを出すのも気にならなくなってきた。多少名残惜しい気さえする。このまま意識を手放してしまったら、もうこうして振り回されることも、ずっと無くなってしまうからなのだろう。
さんざしろボンは邪魔をしてくれたようだが、訪れる睡魔に敵うはずもなく、ゆっくりと沈んでゆく。瞼の裏の闇と、空から降り注ぐ光が、混じって、溶けて消えた。
未だ耳元で何やら騒いでいるので、? 何と言っているんだ? ……。
『ありがとう』? 『さよなら』。
くろボンが眠るだけの簡単なお仕事なので
