やわい寶石

 いい? くろボン。よく聞いてね、これから話すから。なんか違うな、と思ったら、遠慮なく言って。

 と言っても──何から話したらいいかなあ。あ、船のこと覚えてる? 戦艦の中でのことだよ。
 オレがあおボンとこ遊びに行ってたら、くろボンが来て、びっくりしたよ。はるばる海王星まで来るなんて。で、ついでに、オレも地球まで乗っけてもらったの。その船の中のこと。
 そのとき、くろボン話してくれただろ。ええーっと。

「むかしむかしあるところに、とても貧乏な国がありました。貴族たちが独り占めするので、国民は、パンも食べられません。その国には、固い石ころしかありませんでした。
 ところがあるとき、お客さんがやってきて、その石を買ってくれると言いました。」
 で、オレが、「お客さんが石を買ってくれるなら、そのもらったお金で、パンを買えばハッピーエンドじゃん」って言ったのね。
 だけど、くろボンは、「そう思うか?」ってオレに聞いた。オレは、そうとしか思えなくて、頷いたけど、そのときのくろボンが、なんかオバケの話してるみたいにさ、深刻そうな顔してたからさ。オレはちょっと、怖くなったわけ。
 くろボンが続きを話したんだけど。
 お客さんは、お金を渡さなかった。石の代わりに渡したのは、銃だった。
 って、聞いた途端、息が止まっちゃって。だってさあ、悪い想像しかできないよ。
「銃さえあれば、お金はいらない。その辺にある石ころを拾えば、家だって、食べ物だって、いくらでも手に入る。人の命と引き換えに。」
 だなんて、くろボン言うんだもん。
 パンを手に入れるために、銃を買って、人をころ……あー、そんなこと言いたくない。
 頭の中、小っちゃな子どもからお年寄りまで、銃撃ち合う姿が浮かんじゃってさ。ゲームの世界だよ。

 そもそもなんで、そんな話したんだっけ。
 ああ、オレが「ビーストーン」をもらったからだ。
 ビーストーンって言っても、伝説にある、「星をも砕く石」、じゃなくて、オレがもらったのはそのかけら。そんなすごいもの、オレになんかくれないだろ、普通。
 まあ、くろボンが運んでたかたまりの方は、本当にそうかもしれないけど。
 なんでも、海王星の遺跡で見つかったんだって。海王星って海ばっかだけど、昔にすごい大きな国があって、大雨か津波かで沈んじゃって、そのまま海の底に、遺跡が残ってるっていうの。え? 知ってる? それもそうか。
 ビーストーンは、真っ黒こげの炭に、きらきら赤い、ピンクかな? つつじっぽい色の宝石がついた、よくわかんない石で。確かに、宝石部分はきれいだったけど、なんか、よくわからない宇宙生物のたまごみたいにも見えたし。きれいなような、怖いような、不思議な石だなーって思ってた。昔の古い本とかにも載ってたらしいね。オレは、こんボンさんに聞いて、初めて知った。
 で、そんな石が見つかっちゃったもんだから、騒ぎになって。すごかったよ、ネレイドは。あ、海王星の研究所の名前ね。こんボンさん、って人が所長で、あおボンがお手伝いしてるんだよ。右へ左へ、てんてこ舞い。お盆とお正月がいっぺんに来たみたいな。今時そんな言い方しない? ええー、そう?
 まあとにかく、ネレイドはすごい騒ぎだったんだけど、本当にそんな、「星をも砕く」石かなんて、わかんないじゃん。ネレイドって、ビーダロンの研究所だから、きちんと調べられなかったんだね。それで、地球に持ってく、ってことになって、くろボンが海王星に来て、ついでに、オレも乗っけてもらって。
 オレにはさあ、イマイチ、そのビーストーンってのが、そんなすごい石だなんて、ピンとこなくて。こんボンさんから、お土産にってもらったかけらを、どうしようかなあ、って手のひらで遊んでたのね。そこにくろボンが来て、さっきの話。

 こんボンさんがさ、オレにくれるとき、言った言葉を思い出したよ。
(──気を付けてくれよ。その石は、魂を引きずり込むと言われてるんだ──)
 ものすごい、低い声でさ。しかも耳元で。本当にオバケが出てくると思ったよ。ひゅ~どろどろなんて、聞こえてきそうで。背中がぞくっと、寒気がしちゃって。
 星をも砕く、国を滅ぼす、魂を引きずり込む。三拍子そろってる。
 本当にこんなもの、もらってよかったのかな、って、ちょっと……いやけっこう、後悔した。見た目はちょっときれいな石ころなのに、そんな力があるなんて……ってさ。
 さらには、倉庫に、もっと大きなかたまりがある。包みでくるまれて、木箱に入れられて、王子のオレよりもおもてなしされてたよ。まあ、仕方ないか。そんな石だもん。ゾンビと一緒に船載ってるみたいでさ、オレの口の中、苦くなっちゃったよ。

 今にして思えば、くろボン、怒ってた?
 オレに話しかけたとき、「それがそんなに大事か」、って聞いたよね。
 石ころなんて、食べられもしないのに、そんなもの大事にして、振り回されて──って、腹が立ってたんだろ。それで国が滅んじゃったり、いっぱい人が死んだりするのに、銃を渡した本人たちは、おいしいもん食べて、ぐーすか寝てるんだろって。
 そんなもののために、船出して、海王星までやってきて、王子拾って……って、ええ、オレを拾うのがめんどくさかった、って、それで機嫌悪かったの?
 てっきり、一応王子のオレが、そんな危ないもん、大事そうにしてたから、だと思ってたけど。オレは別に大事にしてたんじゃなくて。そりゃ、こんボンさんにもらったものだから、大事ではあるけれど、使い方がわかんなくて、困ってたんだってば。

「返せないの?」って聞いたら、くろボンは「むしろそっちの方が危ない」って言ったっけ。
 星を壊しちゃうかもしれない石が、あるってわかっただけで、取り合いになるって。口止めしても、発掘した人たちには、もうバレちゃってるから。これが本当にビーストーンでなくても、「そうかもしれない」って周りは思ってる。それこそ、戦争になっちゃうかもしれないって。
 オレ、本当に怖くなっちゃって。顔が冷たーくなってくのがわかった。
 オレが怖かったのは、いつもニコニコ、楽しく暮らしてる街の人たちがさ、急に銃構えて、撃ちまくって、人とか家とか、はちロンの巣みたいな……あー、やだよ、想像したくもない。街が壊れて、暗くなって、そういうところ想像しちゃったからだけど。
 きっとくろボンは、オレが「戦争がイヤだから怖がっている」って思ったんだよね。うん、確かに戦争はイヤだ。
 だから「お前は俺が守る」って言ってくれたんだよね。
 そんなこと言ってない? えー言ったよう。ちょっと言い方は違うかもしれないけど、大体同じだよ。

 そうこう話しているうちに地球に着いて。
 あらかじめ立ち入り禁止にしてたみたいだね、宇宙港も、がらーんとしててさ。けど、奥の方で、兵士たちがバリケードになっててさ、すき間から、ちらほら人も見えた。
 兵士たちが列になって、戦艦から出てきて、ビーストーンを運んでた。
 といっても、最初に出てきた、三つのでっかい木箱は、あれオトリだったんだね。本物は、木箱が出てきて、くろボンが出てきて、その後ろの台車に隠してたんだね。いやー、知らなかった。
 おみこしかってくらいに、大勢で、木箱をわっしょいわっしょい担ぐものだから、野次馬も、何事かって思うよね。ホント、さっきも言ったけど、王子のオレよりもVIP扱いだよ。オレは、船にぽつーんと置いてけぼり。出ようとしたら、船の中、バタバタしてて、とてもじゃないけど出られなかった。
 ほとんど荷物が降りた後で、やっと最後に、一人で降りることができた。
 まったく、みんな大げさだなあ。本当に、こんな石が──って思いながら。

 あのとき、オレは油断してた。くろボン、聞きたくないって顔してるけど、大丈夫?
 あれはオレのせいなんだから。
 確かに、いい思い出じゃないけどね。

 ……オレが、タラップから降りてきて、石を頭の上にかざしたとき、反射して、キラッと光った。
 太陽の光かと思った。けど違った。後ろから、「しろボン!」って、くろボンの声がした。振り向いたときに、線が目の前を横切って、オレは宙に浮いて、背中を打って、地面に倒れて。
 体が痛い。信じられなかった。
 ただ、オレのもっていたかけらが、パキッ、って割れる音がした。
 それから先は、何にも覚えてない。ああ、確かに、くろボン、守ってくれるって言ってたけど。そんなことを、考えてた気がする。

 ──ねえ、くろボン、覚えてる?