はッ! お疲れ様であります!
こちら執務室前、異常ありませんッ!
はッ! わたくし、幼い頃よりずっと、くろボン隊長に憧れていたのであります! こうして隊長のお部屋を守れるということは、まこと身に余る光栄でありますッ!
しろボン王子? いいえ、自分、見ておりませんッ!
はい、中にはセレス様がいらっしゃいます!
***
おやおや、まあ。どうされたので?
いや、失礼。あまりにも悪いお顔をされてましたので。いや、これまた失礼。悪い顔、というのはそういう意味では無いのでして……。そう、そうですよね。わかっておいでですよね。
しろボン王子ですか? いいえ、いらっしゃってませんけど。お探しなのですか? 探してる訳じゃない。そうですか。
なにせ、あの方、しろボン王子は、風のようなお方ですからね。どこからともなくやってきて、どこからともなく消えてゆく。もしかして、このお城、王族専用の抜け道でもあるんじゃないですかね。
それを隊長、きちんと見つけてくるのだから、本当にすごいですよね。
***
おや、どちらかへお出かけですか?
もしお時間がおありなら、わしの部屋に寄っていきませんか?
この前お話した、ボンバーファイターの外装素材についてですが……、帝国時代に開発が進んだ為、カラーが暗色で統一されていて、宇宙空間で敵の目をくらますにはいいけれども、太陽熱を集めすぎて、内部の計器類が傷みやすい、という問題ですな。
そう、そこでわしは、開発したのですよ! 天才! お褒めいただいても構いません!
集めすぎる熱を利用して、目玉焼きを作る新素材を!
これを全ボンバーファイターに実装すれば、食べるものには困りませんぞ!
ああ、ところで、目玉焼きには何を掛けますか? 塩こしょう? しょうゆ? ソース? ケチャップ? 用意しますよ。
え、タバスコ? え?
***
あら、お珍しい。こんなところにいらっしゃるなんて。
くろボン隊長? 見てませんよ。見てたらすぐに気がつきます。あんなにいい男ですもの。本当、俳優みたいですよねえ……。
その上頭も良くて、若いのに隊長を務められてて、エリートなんですもの。ウチの息子にも見習わせたいわ。
何より声! 声がいいのよ! 今朝も少しお話ししたの。他の給仕さんと一緒に。何の話だったかしら……。あの声で、耳元で愛の言葉なんか囁かれたりしたらたまらないわ……。
あらごめんなさい。
そうそう、思い出したけど、おやつ? 今の子はスウィ~ツって言うのかしら。スウィ~ツの、おいしいところですって。
だからもしかしたら、街に出ていらっしゃるかもねぇ。
***
ええ、その人なら午前中、いらっしゃいましたよ。
え、あの人隊長なんですか? 最近店を出したばかりだったから……。あ、隊長のそっくりさん。そうですね、こんなところに本物の隊長さんがいらっしゃる訳ないですよね。
なにしろ、おかげさまで、毎朝行列が出来まして。そんな列に隊長さんが並んでいたら、びっくり仰天ですよ。
でも確かに、顔立ちが整った、格好いい男の人でしたね。だからよく覚えています。あんまり甘いものお好きなようには見えなかったんですけどねえ。
買われていったのは……これと、これ。一人で食べるには多いですね。だから彼女にでも持っていくんじゃないですか?
デートスポット? あまりこの辺のことはわかりませんけど……行くとしたらこの先の公園ですかね。よくカップルが歩いているのを見ますよ。
まっすぐ行って、角左に曲がって大通りに出て、ちょっといったところです。
***
はぁ? 白バンバンジー?
確かにありゃあおいしいのう。白ゴマのたれが何とも言えんでのう。
はあぁ? 黒のタンチョウ?
確かにありゃあ綺麗じゃのう。昔はこの辺でもよく見れたもんじゃがのう……。
***
よせって、じいさん。耳が遠いんだよ。
いや、あんたのこと言ったんじゃないって。怒るなよ。
人を探しているのかい? だったら代わりに聞くぜ。
しろボン王子とくろボン隊長? ああ、知ってるけど。の、そっくりさん。そっくりさんねえ……。
そういや、ちょっと前かな? この辺散歩で歩いてたんだけどさ、あそこの時計台の前、遠目でよくはわかんなかったが、誰かいたな。白いヤツ。
なんか女が持つような、ピンクの紙袋持ってたな。中身をちらちら確認してさ。ありゃデートか?
ちょっとしたら、走ってどっか行っちまったけど……おれも公園を出るところだったから、誰か来たのか見てねえな。
黒いヤツ? ああ、黒いヤツだったかも知れねえな……。
***
あれっ? 父上? 父上だろ?
ちょっ、逃げないでよ!
なにその格好? 変装? ああ、父上、天気のいい日は大変だもんね。目立つし、反射するし。
なに、オレを探してたの? ごめんなさい。どうしても欲しいものがあって……。
ああ、これ! 父上も買ったの?
これね、ちょっとくろボンにお願いして、買ってもらったの。え? ううん、これでいっぱい食べられるし、いいじゃない。気にしないよ。
そうだ、父上も一緒に食べようよ!
くろボンはもうお城に戻っちゃった。出来れば誘いたいけど、なんか怒ってたしなぁ……。
***
お帰りなさいませ。国王陛下、王子殿下。
逃げるな!
行動パターンは親子そっくりなんですね。まあいいでしょう。
ところで、どちらへいらっしゃったんですか? その包み、見覚えがありますね。
嘘つかないでください。私とお茶をしたいだなんて、心にもないこと、顔に嘘だって書いてあります。
……そういう意味じゃない。顔を押さえたって意味がないぞ。
どうせ、ご自分が食べたかったんでしょう。
私や王子を探すふりをして、お城を抜け出す口実を探してたんでしょう。何人か、教えてくれました。あれだけあちこちに聞きまわっていたら、誰だって怪しみますよ。
別に断りを入れてくれれば構いませんよ。無断で抜け出すのが困るのです。
スリルを味わいたい? 本気でおっしゃってますか?
そうしたら私も本気で、今度やった時には可及的速やかに兵士を繰り出し陛下保護の名目の元城下のあらゆる門を封鎖し包囲網を……ああ、冗談。それは良かった。
まあ、今回は不問に付しましょう。
え? ケーキ? いりませんよ。それは、王子の為に買ったものですから。
一緒に食べよう? いえ、私には仕事がありますので。
食べないとばらす? 何を? 列に並んだこと?
巷では俺と王子がデートしたことになっている? 何だそれは! 馬鹿か!
だったらそれこそ一緒に食べたら誤解されるだろうが! 国王もいる? 仲人とか言うな!
あー、わかった。食べる食べる。わかった。
その代わり、今度勝手に外に出たら、すぐにわかるように、部屋のドアというドアを外します。よろしいですね。
