『It’s telling me to surrender to the fight.』

(これで生きて帰れたら、俺は英雄だな)
 俺は柄にもないことを考えていた。少なくとも、常人の考えではない。
 辺りは既に薄く闇に包まれ、敵の数も定かではない。もしかしたらもう視力もやられてしまったのかもしれない。風が運んでくる熱気から、まぁまず二大隊はいるだろうと推測できる。
 たかだか100人ちょっと相手しただけで、息があがってしまうとは。我ながら不甲斐ない。
 相手にとっては俺などただの障害物に過ぎないだろう。しかし、俺にとっては紛れもない戦争であった。
 不意に空を仰ごうとして揺らぎそうになった視線を、俺は瞬きを耐えて先に戻した。
 一瞬でも隙を見せたら、死ぬ。

 あいつは無事だろうか。
 俺はそればかり気にかかる。

 この俺が、自ら捨て駒になろうとは。おかしくて自嘲の笑みすらこみ上げてくる。
 俺がここにとどまったとしてどうなる? せいぜい一歩相手の歩みを止められるくらいだ。時間稼ぎにすらなりやしない。それであいつが助かるとでも?
 あいつが……王子が。その一歩分だけでもいられるのなら。
 間抜けでおっちょこちょいで覚えも悪くすぐ逃げ出すしよく寝坊する。頼りないくせに甘ちゃんで皆を助けようとして抱え込む。王子と呼びこそすれ、威厳も資質もなければその姿は一般人そのもの。臣下として諫言申し上げても右から左で聞きやしない。

 ただ、あいつは俺を『親衛隊長』と呼んだ。
 ならば──。
 俺は槍を構える。

「千の兵でも万の兵でも連れてこい、全部俺がぶっ潰してやる」
 勝機や希望なら既に捨てた。
 多数どころか一兵団、少数どころかただ一人。素人ならそれでも夢を見るだろうが、俺はこの圧倒的な数が、絶対の力であることを知っていた。俺の存在など、無いに等しいのだ。
 ただ一つ、あるとするならば。
「恐れ多くも! 此処に在りしは大陽系十の惑星を束ねしビーダ王国が王の居城!!」
 死の足音が近づいてきてるというのに、鼓動が重なって全く聞こえない。
 我が身唯一にして絶対の、一点の曇り無き誇りを腹の底から、叫ぶ。
「親衛隊長の命に懸けて──」
 さぁ、別れの挨拶はどこでしようか。

word by 「Web of Night (English Version)」 T.M.Revolution