たかが季節がめぐるくらいで

3月7日

 城に戻って数か月が経つ。日付を入れて、もうそんなに経ったのかと驚いた。ようやく落ち着いてきた。日頃の記録を残していこうと思う。
 戻ってきてから感じたのは、相も変わらず、ということだ。陛下はどっしり玉座に坐している。威厳がある。のんびりしたようでいてそうでない。油断がならない。なのに時々とんちんかんなことをする。真面目な顔で、かぼちゃはなぜ『南の瓜』と書くのだろと聞いてきたりする。それに、王子には甘い。王子は相変わらず場内を騒がしている。悩みの種だ。城を抜け出すくせは親子相伝かもしれない。
 親衛隊とは一応王族の護衛が任務であるから、当然彼らの面倒も見なくてはいけない。
 それにしても、一国の王、それと王子が勝手に城からいなくなるというのは、大変なことだ。その認識があまりに薄いと感じる。王子もそうだし、兵士たちもだ。王子が抜けだしたからといって、人手を割くのはあまりにバカバカしい。気まぐれに付き合っている暇はない。手っ取り早く、俺が行けば早く済むだろう、と思って迎えに行っていたら、いつの間にか俺の役目になっていた。間違いだった、あれは。最近では、兵士たちが王子がいないと報告してくるが、現場は何をやっているか、といえば何もやっていないのである。すっかり任せきりだ。報告の係をじゃんけんで決めているらしい。抜け出す王子が一番悪い。が、兵士たちの方だって、なかなかに悪いものだ。今後、しっかり再教育せねば。
 今日はこのくらいにしておく。

3月14日

 胸くそ悪い。王子がまた抜けたかと思ったら、昼寝してたそうだ。屋上で。
「一緒に寝る?」とか抜かしてきたので、断固として遠慮した。
 ひま人はいい。気楽で。
 そんな奴に時間をつぶされたかと思うと、嫌になる。

4月11日

 改めて見ると前回はあまりに字が汚い。いらいらしておたのだろう。もっと丁寧に書こう。
 今回、まあ王子も可愛げがあるじゃないか、と思うことがあった。
 しばらく間が空いたのは、一週間ほど演習に行っていたからだが、いない間、あいまいにしか予定を伝えてなかったせいか、大いに心配したらしい。帰ってきて言われた。泣きつかれた。
 いやそもそもなんであいつは俺の部屋にいたのか。よくわからない。
 俺はベッドで寝た筈なんだが? あいつもいたのか? なんで? 人の部屋に。
 ともかくとして、なんだか悪い気がした。
 まあ心配してくれる人がいるのはいいことなのか?

4月18日

 珍しいこともあるものだ。
 王子がいないのは当たり前として(もっとも、当たり前ではいけないのだが。)、あおボンが訪ねてきた。
 のだが、肝心の王子がいない。
 出掛けた訳ではない。抜けだしたという訳でもない。ただ単純に予定が合わなかった。それだけだ。
 あおボンが訪ねてきたというのに、出ないで、王子の仕事を優先するとは珍しい。感心した。
 しかしあおボンには気の毒なことをした。俺が応対した。仕方ないので。
 しかしあおボンはよくわからない俺よりしろボンと話をしたかっただろうに。仕方ない。
「じゃあまた」といって何かを預かった。メロンか?
「みんなで食べてください」って、俺も頂いていいのだろうか。

4月25日

 一日見学体験があった。
『開けた軍隊』というとちゃんちゃらおかしいが、我々のしていることを出来るだけわかりやすく知ってもらうという点で重要なイベントだ。
 だが、命令すれば従ってくれる兵士(というと偉そうだ、語弊がある)と違い、ともかく子供というのは言うことを聞かない。「そこが可愛いんじゃん」としろボンは言う。言うこと聞かないのが可愛い? 「お前は全然可愛くないぞ」と言ったら笑われた。「そりゃあね、素直な分子供の方が可愛いよね、くろボンより」と何故か返された。俺に可愛げなど誰が求めているのだろうか。
 確かに、行動原理は子供に近いのかもしれない。その点は否めない。
 なりゆきで、スカーフを奴にあげる羽目になった。それは結局別の子供に渡ったのだが、あの喜びようは、全く子供と違わなかった。
 まあ悪い気はしないが。

5月16日

 グランドクロス祭というものがある。
 名の通り、惑星直列を祝う祭だ。
 が、そうそう惑星直列なんてあるものでないので、前回惑星直列があった日や、何やら俺の専門外の知識のところで割り出して、(大安吉日のようなものだろうか?)日付を決めているらしい。一年に一回、惑星直列があったらたまったもんじゃない。俺は死んでいる。
 とにかく何でも祭れればいいらしい。いいのか。
 まあ俺は祭りで騒ぎたい連中ではない。小さい頃は楽しかったが、今はそうではない。じいさんに引かれ、ジャックと縁日を歩いたのがなつかしい。わたあめを買って歩いたか、食べたような記憶がある。
 さておき、今は警備の任務がある。祭=仕事だ。楽しいことはない。
 お偉いさまとなると、同じようにお偉いさまを招いたりしなくてはならない訳で、縁日というよりは、社交パーティのような色が濃かった。固苦しいのはうんざりする。かといって、あいつのように自由すぎても困るのだが。
 ところが、予想に反して、あいつはなじんでいた。腐っても王子は王子ということか。
 慣れた手つきで、どこぞやのお嬢さんと談笑して、手をひいて、ボーイに飲み物を頼んだりして、どこの誰だ、お前は。そんな王子だったか?
 眺めていると目が合って、失敗した。グラス片手に、突っ立ってる俺の前まで歩いてきた。後ろのお嬢さんを引きつれて。
 嫌なことをするな。面倒な。
 そしてそいつを紹介すると、何でも握手を強要された。
 いや、挨拶だし礼儀だしわかるのだが、何故に知らない奴と。
 何でも俺のファン(という表現は心地悪い)だそうで、たいそう有名で名門のお嬢さんだそうだが、知らん。うちだって、家の格式くらいある。それをひけらかす奴は信用ならない。
 王子はにこやかだ。むかつく。

5月30日

 そういえばこの頃、王子のちょっかいがない。大人しく部屋にこもっているようだ。
 だが、それでビタミンDは大丈夫なのか? 背が伸びたいと言っていただろう。俺より。
 なんにせよ、王子らしくない。
 いや、王子らしい。しろボンらしくない。

6月6日

 などと思っていたらしろボンに誘われた。お茶だという。
 F・T・G・G・O・P、だったか。正直緑茶が飲めれば十分だという俺には、紅茶はよくわからなかった。
 フィネスト・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコー。
 覚えておこう。何か役に立つかもしれん。
 最高級品だというのは先程調べてわかった。本来家で飲む用ではないらしい。
 それを惜しげもなくおやつごときに出すとは所詮ブルジョアか。うちは出がらしばかり飲んでいた。
 やっかみはさておき、そんな高いお茶と、これまた高級そうな木の実のミルフィーユ、(多分)。
 そんなものでもてなすなんて、俺はいつからそんな偉くなった? 相手を間違えている。
 あいつとて落ちた飴を惜しむような、下手すれば庶民より庶民らしい卑しい奴だぞ。どういう風の吹き回しだ。
 重要な話でもあるのかと、いささか緊張もってドアを叩いたが、どうてことない。ただ話がしたいらしい。呆れた。
「だって友だちいないんだもの」と言う。冗談だろう? 『友だちしか』いないだろう?
 それに、何が楽しくて俺を呼んだのか。気の利いたことなど言えやしない。悩みを持ちかけられても知るものか。
 ただ黙って紅茶を頂いた。しろボンは何か熱心に話していた。
 時々目で頷いた。それだけ。
 紅茶は美味い。ケーキも美味い。
 たまには仕事抜きにするのも悪くない。そんな味だった。
 思い出したらまた口の中が甘い。

6月27日

 書くことはない。
 そう言えば、最高級品だと言うのに、あまりあいつは食べてなかった気がする。
 近頃食堂でも顔を合わせない。限定品が欲しいと城下に駆り出されることもない。
 おかげで仕事がはかどる。
 俺より伸びたいんじゃなかったのか。

7月4日

 家出された。
 王子の家出はすなわち城を出るということで、幼い子供にはよくある話だが、市井の子供のそれとは全く訳が違う。違うのに、城の人間はのんきなものである。王子が行方不明ともなれば、国の威信にかかわる。それ以前に、一人の人間がいなくなっているという事実に、どうして誰も無頓着なんだ。それも日ごろの行いというやつか。狼少年が信じてもらえなかったように、普段勝手にいなくなるからそうなるのだ。
 俺などジャックをひいきすると言って家を出た日には頬を張られた。殴り合いの喧嘩になったり、よしよしと頭を撫でられたりした。じいさんを泣かせたのは今でも悪いと思っている。
 そういう思い出が無いのかあいつは。あったら家出など出来ないだろうに。
 連れられて家に帰った日をよく覚えている。
 あの時はじいさんを独占できて、嬉しいやら申し訳ないやら気持ちだったのを覚えている。
 あいつにはそういう人もいないんだな。
 雨の予想だったから、どうせ一時的だろうけども、窓から見ると雲が今にも弾けそうで、風邪でもひかれたら困ると重い腰をあげた。今ではこの選択は正解だったと思っている。せっかく書類が片付いてきたというのに。兵士たちは相変わらず探しにいこうともしない。「今日はどこにいるんだろうな」と噂するばかりだ。働け。
 思えば近頃こもりがちだったのに、外に出掛けたというのもおかしな話だった。いや、こもっていたからこそ出掛けたのか? 何にせよ、俺の勘がしろボンの行動について、何かを告げているような気がした。
 雨が降ってきた。傘を広げると手がふさがるので苦手だ。これは何としても早いとこ王子を見つけなくては。でもいつものコースにはいなかった。
 結局、公園に奴はいた。公園というか、空き地というか。小さく丸まっていた。だから気がつかなかった。泣いているかと思った。雨かもしれなかった。
 こういう時はじいさんのように平手をあげれば良いのだろうか。いや、あれは慈しみがあればこそで、俺などがやってもただの暴力になるだろう。事実、手を張ろうとしていた。腹が立った。人に散々迷惑かけといて。
 けれど何も出来なかった。
 じいさんはどんな気持ちだったのだろう?
『見つかってよかった』と思ってくれてたのだろうか?
 俺はこいつにそんな気持ちを抱いたのだろうか?
 わからない。

ワ日|1|-

 じ が 、か き づ ら い。

ワ日\∞曰

8月1曰

 小/しはまLにな⊃2へ=6
 王子h川ラ十=れT=○
 = わ |み 目日 11 ておかなLこは○

8月|5日

 =れはひどい。
 *まりのひど±に消したくなった。(だが消さない。消せない。)
 病院で医者にかか水て言われた。当然だ。
 ±すがに=れでは業務に支障をきたお、
 早退なん”||っぶ|)か。初〆2か。
 皆が働り2いる時間、のんきに並木道を歩いこいる。
 1111景色だが、取り残±れたよろ|二も感じる。
 紅葉の季節がLる。*の辺りも銀杏く±くなるのだ3う。
 病名は過労。鼻で笑っL Lまった。

8月29日

 死刑が執行±れた。
 先だって王子を襲撃した犯人だ。
 人の死は嫌だ。
 俺も**やってて3ボンを殺そ3てしたくせに。
 バカら(||6

9月5日

 体めこ言われる。

9月12日

 俺はお呼びでない、か。

9月19日

 変な奴が来た。
 医者だと言うが、妙にう±んくさい。
 まあ正体は割れている。どうせあいうの差し金だろうL、ちょっと付き合っ2やろう。1111暇つぶーだ。

9月26日

 字が書けるようになってきた。
 これでよし。

10月10日

 何だかおかLなことになっている。
 俺のいない間に、軍の予算が大幅に削減されることになったらL||のだ。
 軍が小±くなっていくのはわかる。平和な国だ。戦争の種は摘んでおいた方が、1、、。
 わかるが、俺はいらないのか?
 い±”となった時、どうするくだ?
 お前らで自分の身を守れるのか?
 *の時の⊂っな奇蹟はまたと起こらないくだぞ?
 それをどうせいざとなったら王子にちがっ2英雄にまっりあげるくだろラ?
 いや、それよりも気になるのは、あいつが王ったく元気のないことだ。
 近頃喋っているのを見たことがな| 、。
 会議でも小さく縮こまって、、る。
 何故何も言わな、、のか6
 お前も俺もいらないんだぞ?
 この国はそれで1111のか?
 もLか(2お前も不要だて言いたいのか。
 兵士に言われた。
「貴方は部外者ですから」
 俺を休ませる気づかいなのか。もS信用ならなしは

10月17日

 王に直談判してきた。あまりにひどい。
 いつの間にか軍は穏健派に乗っとられている。
 俺の責任だ。俺が休んでいなかったら。
 平和なのはいい。問題は、「軍などなくして、経済、商業の発展、流通に回しましょう」、ということだ。
 言うと聞こえはいいが、それを言いだしている本人が、商業連合とつるLでいることは知っている。俺が何もしてないと思ったのか。
 しかし俺の権威(というと偉そうで嫌だ)は地に堕ちた。一片もないといっていい。「くろボン隊長は若すぎたんですよ」とか言いやがる。くそが。
「だから戦争なLて起きたんです」とか言いやがる。それを言われたら何も言い返せない。
 ただお前らだって戦争特需でもうけたクチだろう? それが何を。
 そのもうけで今度は議会も牛耳ろうとしている。
 それが明らかなのに、王は何もしない。ボケたのか、あのじいさL。
 聞くと陛下も把握しているという。ならば何故? 議会の進行は王子に任せたかうだそうだ。
 馬鹿か! あいつが出来る訳がない! あいつの様子を知ってるのか!
 とうとう呼びかけても振り向くだけで返事が返ってこなくなってしまった。
「お主があいつを支えてやってくれ」と言う。
 誰が

10月24日

 言われたからにはしろボンの手伝いにいった。
 この前まで病人だったのに、こんな激務に駆り出すなどあの王も大概ブラックだな。俺がいうか。
 まあ断られた。それどころか、書類が雪山のようにそびえているくせに、「触るな」とまで言われた。こんなの放っておいたら雪崩になるぞ。それに溜め込んでいては迷惑になる。さすがにそこまで説教はしなかった。簡単に、書面で見ておくべきポイントがあるのに誰もそれを教えないんだな。俺も教わった覚えはないな。そういえば。出来のよさは人それぞれなのだから、あいつに誰か教えてやってもいいのに。
 俺が言ってもよかったが、今日の目的はそれではない。
 いつだったかの紅茶の返礼だ。
 最高級品には最高級品、玉露をお持ちした。
 だがあいつは休憩しないという。目が回るぞ。
 何だか昔を思い出した。あの頃は立場が逆だった。
 追い払うなどと、割と俺はひどいことをした。
 取りつく島もさなそうなので、勝手に湯を沸かし、勝手に茶を入れ、勝手にすすって帰ってきた。もちろんあいつの分の茶もいれておいてきた。
 飲んでくれるといいんだが。

11月14日

 このごろすっかり閑職だ。名誉顧問、みたいな扱いらしい。なんだそれは。
 おかげでのんびりと読書ができる。この頃は専ら蔵書室にこもって文献漁りに没頭している。
 近々俺はひ免されるらしい。理由は体調不良。まあ間違ってはいない。
 しかしいくらなんでも、今の腐れきった隊に、遅れをとるなど万に一つもない。セレスとパラスにはわからないが。
 この間、二人に謝られた。だが、元はと言えば隊長職を全う出来ない俺の責任だ。謝ることなど一つもない。その志をもって隊を治めてくれたらいいと思う。
 現状隊は人員がぞろぞろ減っていて、例の軍備縮小のあおりを食っているらしい。職にあぶれた兵たちは、私兵という形で、裕福な商人とかの家に雇われているらしい。彼らが食いっぱぐれないのはいいことだが、いよいよ、状勢は危うくなってきていると見る。
 俺についてきてくれる人間はどれだけいるだろうか?
 隊の中には俺の復帰待望論もあるらしいが、残念ながら俺はもう隊長職を果たせそうにない。
 ちょっと前までは、俺が王子を探して城中駆けずり回っていたというのに、今ではすっかり俺が探される側になっている。まだ引き継ぎの最中、俺の名前が必要な書類が多々あるらしい。
 あの頃がなつかしい。もう王子はいなくなる。

11月21日

 みどりボンを呼んだ。名目が悩み相談だったもので裏があるのではと探られた。もっともだが、俺は悩んでばかりいるし、それを人に言わないだけだ。
 お土産は緑茶だ。ありがたい。俺はもてなしにせんべいでも振る舞おうかと思ったが、そんな時間はないので先に済ませることにした。
「やせた」と言われた。顔色が良くないと。顔が悪いのは昔からだ。
「元気そうで安心した」とも言われた。元気、と言われて思わず笑ってしまったので、みどりボンにたいそう驚かれた。
 今日みどりボンを呼んだ目的は、城の中の案内だ。
 本来木立ばかりの木星で道案内をしていたというくらいだから、一回遍れば道は覚えるだろう。
「目的はなんだ」と聞かれた。まあ普通、怪しむだろう。
 みどりボンは親衛隊の内部情勢が危ういのも知っていて、俺が何か企んでいると踏んだらしい。当たっている。
 しろボンに会わせろと言われた。彼は友人だ。だが、一市民が会って目通りなど敵わんのだ。
 後は頼む。
 心配してくれて、ありがとう。

12月5日

 俺はとんでもないことをしようとしている。卑怯者だ。
 これで良かったのか?

 俺は結局こんなことしかできない。

12月12日

 成功した。これで終わった。

2月7日

 まだこれが残っているとは思わなかった。久々に読んだが、懐かしい。
 せっかくだから最後に書いておこうと思う。
 新しい国は落ち着いているようだ。ようだ、とは、俺は完全な部外者(もとい、犯罪者)なのだから、内情までは知りようがないのだが。
 見た目には、上手くいっているように思う。
 ほっとする反面、国民には王などどうでも良いのか一抹の不満を覚える。それもそう。国民などクーデターがあったことは知りはしない。俺とてそう望んだではないか。
 なのに、のんきに暮らしていることに、達成感とか、幸福感を覚えてもいいはずなのに、何故腹立たしさを感じるのだろう?
 けれど安堵はしている。すべては終わったのだから。
 現状、国は今までの連邦制をよりはっきりと打ち出し、その首長には火星大統領が収まっている。
 あの人はかっかしやすのが難点だが、行動は早い。慎重派の水星総理もついているので大丈夫だろう。
 たまたま地球に様子を見にきていた俺と、引き継ぎ関係で地球にきたあかボンとでばったり出くわした。身を隠していたつもりだったが、すぐに見破られた。さすがは昔なじみということか。
 俺の方を非難の目つきでにらんでいた。恨みとか憎悪も感じられた。被害者意識かもしれないが。
 俺が被害者だなんて馬鹿らしい。然るべき処遇を受けて当然なのだ。
 それでも、「何か理由があったんでしょう?」と聞いてくる。
 信じてくれる気持ちはありがたい。だが、それを話すと思うか?
「理由なんてない」と答えると、あかボンはゆるく頭を振った。
 諦めたのか、納得したのかはわからなかった。
「貴方に教える義理はないけれど」、と、しろボンの様子を教えてくれた。
 あれ以来さっぱり音沙汰はなかった。世間では『病気療養』となっている。まあ間違ってはいない。
 水星で静かに暮らしているそうだ。あそこは水が綺麗だ。みずいろボンもあれで友人想いだから何かと面倒をみてくれるだろう。
 ただ一つ、今権力の中枢まで近づいた水星が、彼らを人質にとらないかが懸念される。
 そうなったら、また襲えばいいだけのこと。それだけの力が俺に残っていればの話だが。
 それまで俺は生きているだろうか?
 冥王星には帰れない。帰りたい気持ちはある。じいさんの墓参りにここ何年も行っていない。だから罰が当たったのか? それはともかく。
 今回俺が何をしたか、事のてん末を知っている人間は少なからずいる。
 地位も名誉も失った奴ら(いい気味だ)、俺を恨んで当然だろう。
 俺の故郷が冥王星で、そこに帰るなど、推測はたやすい。
 俺一人なら十分だが、あそこには弟がいる。巻き込む訳にはいかない。あいつの前では立派な兄でいたいのだ。
 多分もう二度と会えないが、あいつなら一人でもやっていけるだろう。
 俺のとばっちりを受けるかもしれないが、並大抵の奴なら簡単に倒せるだろうし、勘弁してくれ。お前は俺より才があったのだから。
 こうなるなら、一度帰っておけば良かったが、もう遅い。
 そもそも俺が幸せに過ごすなど、許されざることなのだ。
 どこへ行こうか。行くあてがない。
 そもそも俺は戦争で死すべきだったのだ。だとしたら、今は余生みたいなものだ。だとしたら、充分幸福だったと言えるのではないだろうか?
 ただ、俺の企てたことが、俗なる野心などではなく、かといって大げさに美化されるものでもなく、ただ単に、「そんな姿は見たくない」という、俺のわがままから発せられたくだらないものだということだ。
 目的は達せられた。
 どうか、皆が、あいつが幸せであったらいいなと思う。