しろボンとくろボンは視線を交わすことなく、しかし向かい合って座っていた。隔てるテーブルの幅は片腕の長さ程度でしかなく、一冊広げるので精いっぱいの大きさだ。しろボンはそこに漫画絵本を積み上げ、くろボンは承認書類を積み上げて、各々やることに没頭していた。
一章を読み終わった頃、ちらとしろボンは目線だけくろボンを盗み見た。相変わらず書類の束にサインを走らせている。こちらから見える限りでは、『道路の通行許可証』『広場の使用許可伺』『舗装工事の作業工程』などと書かれているようだが、活字の群れは頭が認識してくれないので、実際のところどんな書類かはよくわからない。こんなものをずっと見ていられるなんてすごいよなあ、とつくづく感じ入ってしまう。
仕事をしている時のくろボンをまじまじと見ることは少ない。改めて観察してみると、少し伏せがちにした目元にかかるまつ毛とか、眉間にしわを寄せて強張らせた表情とか、時々考えを巡らせ口元で指をはむような仕草とか、その時に小さく唸る声とか、眺めれば眺めるほど動悸を感じて、これはいけない、これでは黄色い歓声も集める訳だと一人頷いた。この見目に加え、仕事もできて、頭は切れるし力も強い。同い年なんだけどなぁ、ふと己の現実に嘆きたくなってくる。
くろボンはいつの間にかその整った顔をあげて、わずかに渋く歪ませながら、隣の書類の束にぽんぽん、と手を置いた。しろボンに訴えかけるかのようだ。見れば、片手で掴むには足りないような厚みがある。こんなに溜め込むなんてらしくないと思うのだが、それはもしかして自分に付き合っているせいなのだろうか。本来ならば今だって、慣れた隊長の執務スペースではなく、わざわざ王子の自室まで出向いているのだから、これは『邪魔をするな』と咎めているのだと、しろボンは読み取った。
くろボンは、途中からしろボンがこちらを見ていることに気がついていた。ただ形式上サインをするだけの作業を見て、何の面白味があるのだろうと疑問に思う。そんなものを見ているよりか、手にしている読み物の方がよっぽど面白いだろうに。とはいえ、本のタイトルが『宝玉戦隊☆プラネットセブン』というこれまたよく理解できないものだったから、己の物差しで測るのは諦めることにした。
じっとまなざしを向けられるのは今日に限った話ではない。時々わざと視線を合わせると、こちらを何気なしに見ているようで、その焦点にはしっかりと捉えられているのがわかる。空を思わせるような、澄み切ったまなざしが向けられる。己の清廉さを見定められている気がしてきて、だけど内心委縮するのを気取られないようにじっと見返してやると、元来の顔つきの悪さからか、睨んでいるように見えるらしい。そういう時、人好きのする彼の顔立ちが羨ましくなるのだ。決して本人には言わないけれど。
あまりに長く見つめられているので、とうとう耐えられなくなって、何とか視線をそらしてやろうと隣の書類に手をやった。かなりの高さになっているそれらには、期限がそう近くないものも多分に含まれている。いわばこの部屋に居る制限時間のようなものだ。下手に城内をうろつかれるよりは、こうして目の前で見ている方がいい。そう思って来たというのに、仕事の様子を見られるのが柄にもなく気恥ずかしくて、己の未熟さに頭を振るのだった。
……ごめんなさい。しろボンは突然詫び言を漏らし、
構わん。くろボンはため息を漏らした。
