寓意暗喩を鏤めて

 コロコロとしたコンテナが、いくつも積みあがって並んでいる。
 空は快晴。柔らかい青にぽかぽかの日差し。絶好の昼寝日和。
 そう、こんな時でなかったら!

 いつもだったら通り過ぎるだけの宇宙港に来たっていうのに、今日ものんびり眺めている時間はないみたい。
 だって、急がないと遅れちゃう!
 宇宙船、かっこいいなーとか。この中に、ハムでも詰めているのかな? とか。
 視界の端々に映る面白そうなもの、お別れを名残惜しく思いながら、オレは自分史上最高速、トップスピードで駆け抜けていた。

 なんだって、こんな日に寝坊しちゃうんだろう! オレったらいっつもドジなんだから!
『牢屋を抜け出して落ち合いましょう。byあかボン』
 そんな恋文が届いたのが昨日の晩。
 処刑の時間は明朝日の出と共に、って言ってたから、それまでに牢屋を出られれば、ちょっとだけ寝ても大丈夫だろう。
 と思ったのが大間違い!
 目が覚めたのが、オレを連れてく兵士たちの足音だったんだから、そりゃもうびっくり! 間一髪!
 急いで支度をして、手紙通りに抜け道を通って、上手いこと逃げ出したはいいけれど……。

 約束の時間は午前七時。もう少しで始まっちゃう!
「いっけなーい! 遅刻遅刻!」
 人目を気にしている余裕もない。コンテナの合間を縫って、オレは一直線に待合場所に向かっていた。

 そう、あとちょっと! このコンテナを右に曲がればもうすぐ!
 タンポポ色のリボンをあしらった、紅い宇宙船。あれがあかボンの船だ。
 よおし! オレは一歩を大股にする。
 その時、突然黒い影が飛び出してきた!

 オレは急ブレーキも間に合わず、思いっきり頭突きをかまして、したたかに尻もちをつく。
「いたた……」
 おでことおしりがじんじんと痛い。
 ぶつかったはずみで、せっかく朝ごはんの小倉トーストも落としちゃったし。もう三秒過ぎちゃったから、食べられそうにないし。
「もう! 危ないだろ!」
 打ち付けた場所をさすりながら、トーストの恨みを存分に相手にぶつけようとした……のに。
 オレはぽかんと口を開いたまま固まってしまった。

 だって、その、ぶつかった相手がとんでもなくハンサムだったから。
 三角定規のようなキッチリキリリとしたまゆげ、黒耀石のような輝きを保った目、自然なのかセットしてるのか美しい角度のまつげ、焦げすぎた木炭のような体の色。石膏像のようなすらりとした手足。胡散臭い手品師がしているようなマントが怪しい魅力を放って、引きつけられるよう。
 見た目はオレと同じ少年のようでいて、感じるオーラからは、良く言えば大人びた、悪く言えば老けてる印象を受ける。
 オレはそのまま、頭のてっぺんから爪の先まで眺めていると、謎のハンサム男は身じろいで、オレの方に手を差し出すような仕草を見せた。
「おい」
 はっとその声で我に返る。
 いっけない! あかボンと約束があるんだった!

「ごめんなさい!」
 オレは急いで起き上がって、180°のお辞儀をすると、すぐさま踵を返して宇宙船の方へダッシュした。
 待て! ──後ろでオレを呼ぶ声がする。
 その声もまた、チェロの旋律のように、いつまでも耳に残って追ってくるけれど──。
 突如、脇を一閃、鎌風がかすめた。
 違う。ビーダマだ。空気を切り裂く速さで、隕石のようなビーダマが、オレを飛び越して駆け抜けていったのだ。
 ちらりと後ろを見やる。彼だ。ハンサム男だ。
 ハンサム男が、オレ目がけて、ビーダマを放ってきたのだ。
 それも一発じゃない。二発、三発、立て続けに。

 これはもしやプロポーズというやつなのか!

 オレは直感した。
 よく読む本には、こういうシーンがある。
 寝坊して、遅刻しそうな主人公。魚をくわえながら、慌てて家を飛び出すと、曲がり角でどっちんかんする。どこ見てんのよ、文句を言ったはいいが、手を差し伸べたのは超絶美形で……実は転校生。喧嘩別れしたまま、学校で運命の再会をする。
 そう、これは運命なのか!
 でなければ、こんな、当たれば木端微塵になりそうな、力のこもったビーダマを打ってきたりはしない!

 けれど、今のオレは、その気持ちを受け取ることは出来ない。
 あかボンの宇宙船のはしごをとっつかまえて、同時に、激しい噴射音と共に体が舞い上がっていく。
 名残惜しそうに見送る彼の姿。どんどん小さくなってゆく。

 だけど、ううん。オレは心配なんかこれっぽっちもしていない。
 そう、お決まりのシーン通りなら、オレたちは必ず再会できるのだから。

 オレはこれから反乱軍に加わることになるだろう。対してハンサム男はきっと帝国軍。
 さっき後ろで「くろボン隊長!」と呼ばれているのを聞いたから、名前はくろボンというのだろう。
 ──くろボン、か。
 これからオレたちは敵同士。モンタギュー家とキャピュレット家のよう。
 いったい、この演劇の終幕はどこで降りるのだろう、と、遠ざかる景色に重ねて、思いを馳せていた。